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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和42年(ワ)6号 判決

原告 国

訴訟代理人 坂梨良宏 他三名

被告 伊藤功

主文

一、被告は原告に対し、別紙目録記載(二)の家屋を収去して、その敷地である同目録記載(一)の土地部分八二・三五平方米を明渡せ。

二、被告は原告に対し、金三二七、二三〇円および内金二八二、七七七円に対する昭和四一年四月一日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

三、被告は原告に対し、昭和四一年四月一日以降第一項の土地明渡にいたるまで年額三〇、三九〇円の割合による金員、および同金員に対する

(一)  同年四月二日以降右明渡済までを期間として年二分五厘の割合により算出した金員

(二)  右明渡の翌日以降完済するまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

四、原告のその余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は被告の負担とする。

六、この判決は原告勝訴部分につき仮に執行できる。

事実

原告指定代理人は、主文第一、三、五項同旨のほか被告は原告に対し金四〇五、五〇〇円および内金三四八、六五一円に対する昭和四一年四月一日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え、との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、別紙目録記載(一)の土地部分(以下本件土地と呼ぶ)を含む畑一筆一六五・二八平方米は、もと訴外井上二郎の所有であつたが、昭和二〇年三月一四日、海軍省が買収したので国有となり、同年一二月一日大蔵省に引継がれ、現に近畿財務局の管理に服している。

二、被告は、何ら正当な権限のないことを知りながら不法に本件土地の占有を開始し、昭和二九年五月二〇日以降、同地上に、別紙目録記載(二)の家屋を建築所有し、同土地の占有を続けている。

三、ところで、被告は、いわゆる悪意をもつて本件土地を不法占拠し、同土地使用料(賃料)相当の不当利得を得ているのに反し、原告は、そのため本件土地の使用を妨げられ、毎日、右使用料と同額の損害を蒙つている。

四、なお、右土地使用料(賃料)すなわち被告の不当利得額(原告の損害額でもある)は、いわゆる路線価格等を基礎にして本件土地の価額を評定し、これに年四分の利潤率を乗じて算出すると、

(一)  別紙計算表のとおり昭和三一年七月一一日以降昭和四一年三月三一日までの間において累計三四八、六五一円に達している。

(二)  また、右利得金に対する昭和四一年三月三一日までの利息金は、別紙計算表にある「算定期間中の利息」と「算定期間後から昭和四一年三月三一日までの利息」を合算した金五六、八四九円である。これに右(一)の不当利得額を加えると金四〇五、五〇〇円である。

(三)  更に、昭和四一年四月一日以降本件土地明渡済まで毎日生ずる不当利得額は年額三〇、三九〇円の割合による金員である。

五、右の不当利得額および利息等に関し、近畿財務局神戸財務部長は、昭和四一年七月一〇日被告に到達した書面により、これらを早急に支払うよう催告した。(本訴提起は四二年一月七日)

六、よつて、原告は、被告に対し

(一)  所有権にもとづき、前記家屋を収去して、その敷地である本件土地の明渡を求める、と共に

(二)  昭和三一年七月一一日以降昭和四一年三月三一日までに生じた前記不当利得額および同期間中の利息、その合計金四〇五、五〇〇円および右利得額三四八、六五一円に対する昭和四一年四月一日以降完済にいたるまで年五分の民法所定利息の支払を求めるほか、更に、

(三)  昭和四一年四月一日以降本件土地明渡済までの間に年額三〇、三九〇円の割合で生ずる不当利得額、およびその法定利息として道利得額に対する

1  昭和四一年四月二日から右土地明渡済までの間は年五分の割合により算出した金員の二分の一

2  同土地明渡済の翌日以降完済にいたるまでは年五分の割合による金員

の各支払を求める。

と述べ、なお、被告の答弁事実中、被告が訴外井上から本件土地を買受けた、との点を否認する、と述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、

一、原告の主張事実中、主張の本件土地上に、被告が原告主張の家屋を所有し、同土地を占有していること、同土地はもと訴外井上二郎の所有に属したこと、はいずれも認める。その余の原告主張事実は争う。

二、本件土地はもと右訴外人の所有に属し、訴外岸常一なるものが所有者の代理人としてこれを管理していた。

被告は、昭和二六年頃、右の岸常一を介して訴外井上二郎から本件土地を買受け、所有権を取得した。仮に、同売買が無効に帰したとしても、被告は、訴外井上(その頃の登記名義人)が正当な所有者である旨、過失なく信頼してこれを買受け、じ来満一〇年以上に亘り、平穏かつ公然に同土地占有を継続しているので、既に本件土地を時効取得した。したがつて、原告は主張の所有者ではない。

三、なお、原告は不当利得とその利息を主張するけれども、主張の利得額は全く客観性がないし、また被告には何らの悪意もないので、利息を払わねばならぬ必要もない。

と述べた。 〈証拠省略〉

理由

一、原告の主張事実中、主張の本件土地がもと訴外井上二郎の所有であつたところ、既に昭和二九年五月頃以前から、被告が原告主張の家屋(別紙目録の(二))を本件地上において所有し、同土地を占有していること、は当事者間に争いがない。

二、原告は、同土地を買受けた旨主張するので按ずるに、〈証拠省略〉および弁論の全趣旨によると、原告は、早くも昭和二〇年三月一四日主張どおりこれを買受けて所有権を取得し、かつ引渡を受け、ようやく昭和三二年三月六日にいたりその旨の買得登記を経由したことが認定できる。これに反する証拠はない。

三、次に、原告の主張する悪意の不当利得であるが、〈証拠省略〉によると、被告は昭和二九年五月頃以前から何らの権限もないのに本件土地上において前示争いのない家屋を所有、現在にいたるまで同土地の占有を継続し、毎日、土地使用料相当の利益を取得しているところ、その占有開始当時、自己が無権限である旨すでに充分認識していた、ことが認定できる。これに反する証拠はない。なお被告は、本件土地を買受けた旨抗争するけれども、もとより証拠はない。

四、ところで、被告の前示利得によつて蒙る原告の損害であるが、原告はようやく昭和三二年三月六日に買得登記を了したこと前示のとおりであるから、おそくとも同年同月末日までは本年土地を利用する必要がなく、それまでの間、被告に同土地を不法占拠されていたからといつて、別段の損害を蒙つたものということはできない。したがつて、同日までの利得金およびその利息についての原告の主張は理由がない。

五、そこで、原告は、昭和三二年四月一日以降、本件土地使用料相当の損害を蒙り、反面被告は、悪意をもつてそれと同額を不当利得していると言えるのであるが、原告が右利得額算出方法の基礎として主張するいわゆる路線価格なるものについては、未だ具体的路線価格を認めるに足る証拠がない。したがつて、原告主張の別紙計算表に記載された数額はその根拠を欠きとうてい採用するに由がない。

六、しかし、土地の使用料(賃借料)は、土地の価額が認識できる場合これに原告主張の利潤率年四分を乗じて算出することが容易であるところ、本件土地の昭和三二年、三四年、三六年、三八年、四〇年の各四月一日当時における各価額は〈証拠省略〉公知である日本不動産研究所発表の全国市街地価格推移指数、ならびに弁論の全趣旨を総合すると、別紙利得表にある「三・三平方米の期初価額」欄にそれぞれ記載したとおりである旨推認できないこともない。これを基礎にして原告主張の利潤率年四分に従い算出すると、昭和三二年四月一日以降昭和四一年三月末日までの本件土地使用料相当額は、同表「資料」欄に記載したとおりであり合計二八二、七七七円に達すること計数上明らかである。

また、前示使用料相当額に対する民法七〇四条の利息は、年五分であるこというまでもないから、昭和四一年三月末日までの利息額を同利率により算出すると、別紙利得表記載の「算定期間中の利息」欄にある一二、一四二円、および同表「算定期間後、四一年三月三一日までの利息」欄にある三二、三一一円の合計四四、四五三円であることもまた明らかである。

七、なお、昭和四一年四月一日以降においても、被告は本件土地使用料相当の利益を得ているところ、その数額が原告主張どおり年額三〇、三九〇円の割合を下らないことは、前示認定の各事実により容易に認定できる。したがつて、悪意の不当利得者である被告は、この利得およびこれに対する前同様の利息をも支払わねばならぬ。

八、よつて、原告の本訴請求中、被告に対し

(一)  敷地所有権にもとづき、本件家屋を収去して本件土地の明渡を求める、と共に

(二)  昭和四一年三月三一日までに生じた不当利得額二八二、七七七円、これに対する同日までの利息四四、四五三円、その合計金三二七、二三〇円および右二八二、七七七円に対する同年四月一日以降完済にいたるまで民法所定年五分の利息の支払を求める、ほか

(三)  同年四月一日以降本件土地明渡済までの間に、年額三〇、三九〇円の割合により発生する不当利得額、およびその民法所定利息として、この利得金額に対する

1  昭和四一年四月二日から右土地明渡済までを期間として年五分の割合により算出した金員の二分の一

2  同土地明渡の翌日以降完済にいたるまで、年五分の割合による金員の各支払を求める。

部分をいずれも正当として認容し、その余の請求部分を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担については民訴九二条但書、仮執行の宣言については同一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

計算表、利得表〈省略〉

(裁判官 山田義康)

別紙目録〈省略〉

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